自分で楽器演奏を録音するなり打ち込みで音源を鳴らすなりして曲を作り最終的にMP3にしてみたものの、売られているCDやプロの曲に比べて何か音量が物足りないと感じたことはありませんか? かといってDAWで曲のマスターボリュームを上げてもクリップして音が歪んでしまったり。 そういったものは一般的に音圧の差と言われます。 さて、音圧とは。これは平たく言えば聴感上の音量のコトです。 音が大きく聞こえるとか、小さく感じるなどの感覚のことですね。 普通、売られているCDなど我々が耳にするプロの作品はそれなりに音圧を高くするためのマスタリング(調整)が施されています。 そのためただ曲を作っただけの個人の作品よりも音圧・迫力が強いわけです。 今回このコラム用にひとつ短い曲を用意したので聴いてみてください。 ●サンプル曲1 フリーウェアプラグインのみで簡単に作ってみたものです。 出だしからドラム・ベースなんかが鳴りますが、エンディングは包み込むようなシンセパッドで静かに終わる構図になっています。 そして、同じ曲を仕上げを変えたものを用意したので連続で聴いてみてください。 ●サンプル曲2 ふたつは明らかに違いますよね。 何が違うのかと言えばやはり音の大きさです。しかし実際にはただ音量が上がったわけではなく、音圧が上がっているのです。 話をわかり易くするために、曲を波形を見てみましょう。まずサンプル曲1のほうは と、なっています。ピークの山が結構激しくありますね。これは主にドラムで、シンバルの部分などは特に大きく音量が上がり、ここが曲の最大音量となっています。 最後のほうのシンセパッド部では当然ながら波形がかなり小さくなっています。 それではサンプル曲2のほうを見てみましょう。 かなり変わりましたね。全体的にピークの上下が少なくなり常に最大音量付近の音量を出ている感じです。 これはコンプレッサーによる処理を施したもので、音圧を稼ぐ一般的な方法です。 波形も大きく変わり聴いた感じもグッと音が大きくなりましたが、最大音量の数値は1も2も変わらないということに注意してください。 1の段階から、単純に音量を上げては最大音量を超えて音が歪んでしまいます。そこで、コンプレッサーでピークを抑え込むことで音圧が稼げるのです。 ここまでの説明では少々わかりづらいかもしれませんが、もう一度話を1の曲に戻すと、シンバルの部分で音量が大きく上がりそれに最大音量が決定されてしまうため、音量を上げることが出来ませんでした。 しかし逆に、そこの部分をピンポイントで抑え込んで(音量を下げて)やれば、他の部分と一緒にまた上げることが出来るのです。 さらに簡潔に言うと、一番大きい音と一番小さい音との差を縮めてやることで、常に出来るだけ大きい音量を出た状態にしてやろうということです。 この常に最大音量付近の音量が出ている状態が、多くの場合「音圧が高い」と感じられる状態です。 では次に、音圧を稼ぐ必要性・メリットについて話してみたいと思います。 とりあえずは迫力が増すということ。そして曲中の音量の上下幅を抑えることによって音が整い、聴きやすくなるということなどが挙げられます。 特に最近は前者の理由でコンプ処理を強めにかけている人は少なくないと思われます。 しっかりと音圧が稼げれば、市販の曲と連続して聴いても音が小さいと感じることはないはずです。 しかしコンプレッサーをかけることによるデメリットも多々あります。 まず大きいのが曲のダイナミクスが失われるということ。波形のピークの部分というのはただ何か不都合で音が大きくなっているわけではなくそういう演奏であるので、その音量を抑えるということは当然演奏に不自然さを生みます。 例えばクラシックなど特に演奏表現が重要になる曲にキツいコンプなどかけてしまうと台無しになる恐れがあります。 あとは曲の奥行き感や空気感を潰してしまうことなどが挙げられます。 ひとつめに挙げたデメリットは非常に重大だと私は考えますが、音の緩急が豊か過ぎても聴きづらいのも事実で、適度なコンプ処理は聴きやすさに貢献します。この辺は好み次第の部分もあり、難しいところです。 音圧に関することがわかってきたところで、もう一度サンプル曲1と2を聞き比べてみましょう。 1では無理の無い楽器間のバランスで曲として普通ですが、若干音圧が小さく迫力に欠ける印象があります。 2では音圧が大きく上がり迫力が増した変わりに、ダイナミクスにややバキバキとした不自然さが生まれ、またどの音も目の前に張り付くように鳴りアンサンブルが奥行き感を失っています。 さらに、少々わかりにくいかもしれませんが、終盤のシンセパッドの音量が持ち上げられてしまい静かに包み込むようにエンディングを迎えるという音楽表現のバランスを変えてしまっていることに注目してください。 これは説明をわかりやすくするためにあえて今回音量が小さい部分を持ち上げるようなコンプ処理をしたからなのですが、上から抑え込むだけの処理でもダイナミクスを潰すという意味では同様です。 説明はお終いで、締めです。 昨今ではプラグインで簡単に使えるコンプレッサーなども多くあり、市場の曲もプロの仕上がりを目指した個人レベルの作品も、強めにコンプ処理をして音圧を稼いだものを多く見かけます。 しかし私はこの傾向には疑問を持っています。 テクノやトランスだったり一定音量のほうが聴きやすさを感じるような場合を除き、ダイナミクスを潰すことに関しては少なからず抵抗があるのです。 確かに常に音量が大きく音圧が出ていれば、同じ音量で聴いていても他の音より大きく聞こえて迫力がありますが、逆に音量を落としてみた時、平坦で全体に引っ込んだような印象になってしまいます。それこそ迫力が無いのではないでしょうか。 スピーカーのノブひとひねりで済む音量(音圧)のために音楽表現を犠牲にするのはあまりにもったいないことだと思います。 まぁ、この流れはオーディオの高音質化に伴ってまた変わってくるのではないかと予測しています。 求めている表現の本質を忘れないようにしなければ、「高音質だ、ベロシティを細かく打ち込みだ」なんて言いながら最終的にコンプでバコンと潰すなんてことをしてしまいがちです。 例えば、今回使ったサンプル曲の1ではドラムによるピーキングをほどほどに抑えてやる程度のコンプ処理が適切なのではないかと私は思います。 みなさんは、音圧問題どう考えますか。 |
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