実践音色作り!

使ってみようリングモジュレーション

DreamStationに用意されている[RING]というボタン。
一度は気にしたことがあるんじゃないでしょうか。
今回はこれにスポットを当ててみたいと思います。

RING、すなわちリングモジュレーションとは、ふたつの入力信号を受けてその和と差の音を出力するものです。
例えばふたつのサイン波をリングモジュレーションにかけた場合、元々のサイン波は消えて別の周波数のサイン波がふたつの生まれます。
2000Hzと1500Hzのサイン波であった場合、出力されるのは3500Hzと500Hzのサイン波です。
では鋸波や矩形波をリングモジュレーションにかけた場合どうなるかというと
それぞれの基音・倍音成分全ての和と差を重なり合わせた複雑な音になります。



…はい、多分これを読んだほとんどの人が同じ感想だと思いますので安心して下さい。
要するによくわかんないってことです。
どんなに原理を頭に詰め込んだって使ってみなければわからないので、今回はリングモジュレーションの魅力と実用的な使用例を解説していきます。
なんとなく使ってみれば、面白いもんですよ。

まずはDreamStationを立ち上げて、OSC2をONにして[RING]スイッチを点灯させてみて下さい。
そして音を鳴らしながらOSC1あるいはOSC2の[tune]をグリグリ動かしてみます。すると音が大きく変化します。
この状態がまさしく、リングモジュレーションがかかっている状態。
なんだか音程がよくわからない不思議な音が鳴ったりします。
リングモジュレーションで重要なのは、OSC1・OSC2で選択する波形、そしてOSC1・OSC2間の周波数比(音の高さの違い)です。
ただし、それらをどうすればどういう音になるのかというのが実際のところなかなかよくわかりません。
ですが実はこの「よくわからない」というのがリングモジュレーションの密かな魅力でもあって、減算式シンセを使っていて陥りがちな「予定調和な音作り」を脱する助けになってくれたりします。
「よくわからないが効果の大きい素敵機能」ってところでしょうか。

OSC1/OSC2共にサイン波で、OSC1が0%、OSC2が52%ぐらいのtuneにして音を鳴らしてみると、大きな鐘をついたかのような不協和な複雑な音がします。
この金属を連想させる複雑な響きがリングモジュレーションの大きな魅力であり、「リング」モジュレーションと呼ばれる由縁です。
逆に言うとメタリックな響きを作りたい時にはリングモジュレーションが役に立つ、と覚えておくといいかもしれません。

DreamStationも基本は減算式のアナログシンセです。
減算式とは、ある成分(オシレーター波形)をフィルター等で絞り(成分を引き)音を作るということ。
つまり最初にある成分以上のものは発生しないので、予想がつきやすく音作りがやりやすい反面、考えもしないような面白い音は生まれにくかったりします。
先ほど書いた「予定調和な音作り」とはこのことです。
しかしリングモジュレーションは予想もしないような成分を生み出してくれたりするので、多少でも使えるようになると音作りの幅が物凄く広がります。
と、魅力をまとめたところでやっとこさちゃんとした実用例いきます。


メタリックな響きもいいですが音が複雑すぎて使い辛かったりするので、まずは実用的リングモジュレーションの入り口として地味めなオルガン音色を作ってみましょう。
今回のセッティング

※画像クリックで音色ファイル(.dsi)をダウンロード出来ます。

1.OSCILLATOR2をONに、tuneを80%、fineを-30%に設定。RINGをONに。

はい。これでオルガンぽい倍音の完成です。
ある意味ではリングモジュレーションぽくない音かもしれません。
リングモジュレーションは不協和で複雑な音を作れますが調和して聴こえる関係っていうのも実はあるんです。
5度上・オクターブ上・1オクターブと5度上…といった倍音に沿った関係の周波数比では、比較的整然とした効果が得られるので実用的です。
今回使ったのは1オクターブと5度上(正確にはそれに近い)の音程。なんとなくオルガンのような響きになります。
これでオルガン音色完成ですって言ってもいいんですがちょっと味気ないのでもう少し凝ってみましょう。

2.フィルターをONに。HPを選択してcutoffを30%に設定。

ちょっと低音が邪魔くさいかなと思ったので軽くハイパスで絞ります。
次の工程との兼ね合いもあります。

3.LFOをONに。destに[FLT]を選択してdepth20%、rate100%。

カットオフを最速のスピードで軽く揺らがせてやることによって、ハモンドオルガンのような(あるいはレスリースピーカーを使っているかのような)チリチリ感のようなものを出してみます。

4.USER ENVELOPEをONにし、gainを5%に上げる。

ちょっとアタック感が欲しくなったので、発音の瞬間ほんのすこしだけFMがかかり「プッ」という音を慣らします。
出来れば本物のオルガンのクリック音的な打楽器に近い音を鳴らしたかったのですが、機能的な制限でそれは出来なかったので「アタックにほんのちょっと味付け」程度の考えで効果は少なくしてあります。
それでも変調機能を複数使用することにより音色に多くの要素が加えられ豊かに感じられる面白味は味わえるかと思います。
ちなみにこのようなアタック部分の効果は、素の時よりもリバーブやディレイをかけた時に目立ってきたりします。

5.VIBRATOのdepthを8%、ratoを100%に。

これはLFOでカットオフを揺らしたのの延長線上です。高速ビブラートをかけることで軽いチリチリ感を狙ってます。
気休め程度の効果なので、やってもやらなくてもいいです。これで完成。


●サンプルソング

サンプルソングのオルガンは軽くコンプをかけただけでほぼノンエフェクトです。
後半にはリングモジュレーションを使った音痴なベルが出て来ます。
今回はあくまでリングモジュレーションのひとつの可能性としてオルガン音色を作りましたが、これがリアルなオルガンかと言われれば「NO」だしDreamStationでオルガンを作る意味もないと思われるかもしれません。
しかしこの音はこの音で味があるものですし、イチからシンセイサズしている強みを活かして曲中でサイン波に音色変化させちゃうとか、ピアノように減衰したりポルタメントで滑らかにピッチ変化する不思議なオルガンなど、色々な応用アイデアが考えられます。
シンセで音が作れると色々な可能性があって面白いということです。
なかなか扱いが難しいリングモジュレーションですが、思い出した時にポチっと押してみると思わぬ成果が得られるかもしれませんよ。

尚、リングモジュレーションはしばしば「AM変調」と混同して扱われるようです。
詳しくは専門的で難しいのですが、全く同じものというよりはAM変調の特定のケースがリングモジュレーション、という関係のようです。
参考サイトをリンクしておきます。

→リングモジュレーションと振幅変調(AM)

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